未知の土地,氷見へ
時計のけたたましい音で目覚め,窓際に立ってカーテンを開けると,高岡駅構内の操車場は闇の中に静まり返っている。そそくさと支度を始めると,氷見行の始発列車に乗るために荷物をまとめて高岡駅に向かった。
高岡駅2Fのコンコースにはまだ人の姿はなく,始発列車の行先と時間を案内表示で確認すると,改札前の椅子に腰かけて小説をひらいた。
乱世の中,父以外は血のつながりのない屈折した商家に生まれ,母親や兄弟達に疎まれ,実父にも邪険にされた主人公が鬱屈した気持ちを抱えながら青年になった折,父親に命じられて家人とともに金塊を探しに行くところだった。生まれながらの感性と美貌を備えた主人公が,初めて窮屈な家を出られた解放感を感じながら,これからさまざまな苦難に対応していくことになる。
出発の20分前には改札を通過すると,一番端のホームに降りる階段に向かった。しばらくすると,大きなディーゼル音を響かせながらどこか懐かしい気動車がホームにすべりこんできた。
3両編成の一番前の車両のドアの開閉ボタンを押して乗り込むと,一段あがって通路をとおり少し硬めの座席に腰かけた。窓越しに他の番線を見ていると,同じ車両がぽつりぽつりと左右を行き交いはじめている。
発車ベルが鳴りやむと,轟音と共にゆっくりと列車が走りだした。
しばらくは民家や学校,工場などの風景がつづくが,だんだんと人の手が入っていない空き地などが目立ち始め,視点がすこしづつ遠くなる。
列車が速度をあげると,沿線に生えている長い草がなびいている。単線を走る列車はそれらをかき分けるようにして朝焼けの中を北に向けて走っていく。
列車の右側の視界が急に開けた。
富山湾は朝の光を浴びて静かにたたずんでいる。
雨晴駅で対向列車とすれ違うと列車はすこし海とは距離を取り,さらに北東方面に向かってひた走る。加速時にはディーゼルの轟音が鳴り響くが,加速を止めると静かな惰行が始まり会話も聞こえるようになる。この強弱の切り替わりがなぜか子供のころから好きだった。
氷見駅は未だ通勤・通学の時間が始まる前で人影もまばらである。駅前の道を右側に十数分歩いていくと氷見漁港にたどり着いた。漁港の構内はひろく500メートルほどさらに歩く。大小のトラックが出入りして,漁港関連の人々がせわしなく行き交っている。
ふたつある防波堤の手前側の付け根部分に漁港の建屋があり,そこの2階に上がると2階の通路部分以外は1階と吹き抜けになっていて,そこでは威勢よく富山湾で今朝とれたばかりの魚の競りが行われている。振り返ると,2階の通路にへばりつくように魚市場食堂の入り口があった。
ほぼ開店時間に店内に入ると目の前に大きな手書きの写真付きメニューがあり,その場で注文すると4人掛けのテーブル席に着いた。配膳の際に店員さんに氷見浜丼にのっている魚をひととおり説明いただいたが,さわらのあぶりが香ばしく漁師汁もあたたまり,つかの間の幸せを感じた。
(つづく)